金融取引税の困難

当たり前の話だが、金融取引税を導入しようとするとき、課税の対象を明確にする必要がある。ところが、その中央に困難が横たわっているというのが、今日の指摘である。端的にいこう。EUでは取引額あるいは想定元本に対して、一定の税率で課税することを検討したようだが、サイズは同じだがリスクが異なる金融取引に、同様に課税することは妥当だろうか。

全然無理。あらゆる方向に抜け道があり、まるで平野だ。例えば株式を10,000円買うと、10円分課税されてしまうなら、代わりにブル型投信を5,000円買うことにすれば、同じリスクでも課税は5円で済むことになってしまう。債券なら、より長いものを買ってもよいし、あるいは勝手な指数なり約束をこしらえてもよい。要するに、より高いリスクを、形式的にでもつくってしまえば、節税が可能なわけだ。


こんなのは駄目だ。我々は発見した。金融取引税は、「リスク」が課税の対象だったのだ。種類は似ているが、より大きなリスクには、より大きく課税しなければ、金融取引税の意図を実現できない。

話が面倒になってきたと感じられるかもしれない。心配御無用、ここで終わりです。なぜなら我々は、リスクを客観的には評価できない。トヨタの株式に、どんなリスクが潜んでいて、それが日産の株式のリスクと、どのように異なるのか。そして、どのようにプレミアムを要求するのか。百の投資家がいれば、百の見方が存在し、すべてが時とともに移ろう。取引が常に成立している理由でもある。


サブプライムCDOのリスクは、どのように評価できるだろうか。今日の踊る仕手株のリスクは、どのように評価できるだろうか。あるいは地震や災害のリスクは、どのように評価できるだろうか。情報と流動性の霧の中、いつでも我々は明日を探っている。