日銀はギリシャ支店を出して、円クマを発行してはどうか

ギリシャがユーロを離脱したところで、何ひとつ素敵なことなど起きないように思われるのは、ECBは既に限りなく緩和的で、ドラクマを復活させたとしても残念ながら、それは単に預金者から購買力を奪う目的にしかなり得ないだろうからだ。細かな理屈をあれこれ考えるよりも先に、人間には勘が働くもので、既に逃げ出す動きは活発化している。

預金引き出しに加えドイツ国債の購入注文が急増し、合わせて約8億ユーロに達したという。

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通貨統合に参加していることで、財政破綻状態の割には奇跡的に守られているギリシャ国民の生活が、とても悲しい想定だが、放漫なドラクマによって破壊された後の状況を考えると、しばしば途上国で見られるように、誰も受け取りたくない国営紙幣に代わって、おそらくドルあるいはユーロが流通を始めるのだろう。そこで今日のタイトルである。そのとき日銀はギリシャ支店を出して、円クマを発行してはどうか。


もちろん決済では圧倒的なシェアを誇るドル、それまでの親しみに溢れ近隣諸国で使われるユーロを向こうに回して、我が日銀マネーが現地で活躍するためには、クライアントサービス精神と工夫が必要だが、こんなふうに考えてみた。安全安心を打ち出しつつも、調達した資金は、ギリシャの現地へと貸し出すと約束するのだ。


とはいえ財政ファイナンスには与しない。安売りもしない。ギリシャ政府にも民間銀行にも貸し出すが、相応の金利は受け取り、同時にスワップでヘッジしてしまう。流動性は供給するが信用は供給せず、バジョットの意味での最後の貸し手*1になるのだ。決済の利便性は、日銀が誇る金融市場へのアクセスを存分に発揮して、できる限り確保していく。この点はドルやユーロより劣らざるを得ない面もあるだろうが、しかしギリシャで将来を見据えたプロジェクトが立ち上がるとき、その骨太な計画が投機屋の信用さえ得られれば、資金調達はバックアップされるメリットがある。


日銀側のメリットは、第一に通貨発行益である。無利息の円クマ紙幣*2で調達した資金は、ギリシャを再生するプロジェクトへと投資され、そのリスクがヘッジされた後でも、しかし若干のお釣りは返される。そうして中銀本来の仕事を進める枠組みが確立されれば、最終的には、日銀ギリシャ支店は現地に譲渡あるいは売却してもよい。挫折した経済が再び立ち上がるアクションを、紙幣と決済から支えるチャレンジが成功すれば、世界に名声を轟かせつつ、同様のニーズは殺到するかもしれない。


屏風の中の理屈の話は、もちろん現実には困難なハードルが数多く立ちはだかるわけだが、しかし唸りながらも考えてみることが、我々の将来にとっても直接に役立つと思われるのは、それが夕張円*3であれ沖縄円であれ、本質的に同じチャレンジだ。それぞれの地域には個性があり、そこに流れる時間は常に異なる。