今後の円安傾向について説明を試みる

はじめにお断りしておくが、この手のあらゆる「予測」は当たらない。より正確に表現するなら、あらゆるタイムスパンに対して、おおよそ五分五分で当たる。つまり新たな情報を提供することは難しく、言い換えれば、市場は随分と効率的だ。当ブログが、25世紀の姿を断片的に予見する以外に、ほとんど具体的な予測をしないのは、主にそういった理由による。要するに、外れてカッコ悪い姿を晒したくないチキンでカモなわけだ。その意味で、PKのゴールキーパーみたいなタフな仕事*1をこなす連中のことは、いつも尊敬して止まない。


さて、しかしながら今後しばらく、これまで過剰な緩和を行ってきた主要通貨が、その金利を需給が要求する水準に近づけざるを得ない中で、つまり利上げせざるを得ない中で、相対的に円には弱まる力が働くだろうと考えている。今回の視点はたったひとつ、拡張された金利平価*2だ。金利平価とは、簡単に説明すれば、外貨預金は儲かりも損もしないよと、そういう水準に為替レートは落ち着いてるはずだよという話で、要するに高金利通貨は減価すると主張する。ま、全然的外れだ。ただ、僕らはいま、金融政策が世界を振り回す状況の中に暮らしている。中央銀行による介入とダイナミックな均衡について、この道具で、シンプルに説明できそうな気がした。いきなり実例でいこう。


米国は過剰に緩和していると考える。簡単のためにやや乱暴な数字を使うが、例えば需給が一致する短期金利が2%程度であるにもかかわらず、FRBは紙幣による調達を利用して、その水準を0%付近まで押し下げていると思おう。言い換えれば米国では、差し引き2%程度のスピードで、貸し手から借り手への移転が起きている。一方で、為替は金利の交換である。自国の短期金利をギブアップして、相手国の短期金利を受け取る。相手が米国なら、もちろん自分も貸し手の一部にならざるを得ないが、そのバケツからは2%のスピードで水が漏れているのだ。だとすれば、その分だけ米ドルは弱まっていくとは思われないだろうか。


もちろん、短期金利に介入するのは米ドルだけではない、ユーロも、円も、ポンドも、同じように貸し手から借り手への移転を実行して*3いる。穴の開いたバケツ同士なら、その漏れる速度を、こんどは比較することになる。とはいえ、この中でひとつだけ、特殊な通貨があることを思い出してほしい。そう、ゼロ金利を長いこと続けてきた我が円だ。短期金利の下限にピッタリと張り付いているのに、ちっとも貸し出しは進まない。貸し手から借り手へ移転を、様々に試みているにもかかわらず、まったく効果の実感が湧かない、神の壁を感じる市場である。言い換えれば、円のバケツには、いま穴が開いていない。少なくとも他通貨よりも、ずっと小さい*4と僕は考えている。


あちこちの穴から漏れ出した水*5は、主に新興市場と商品市場に注がれ、周辺にも飛沫が散り、世界はおかしなことになっている。国内の株式市場は地震から素早く立ち直ったが、買い煽った僕でさえ気持ちの悪いスピードだ。もちろんこのことは、あちこちに様々な歪みを生み、英国でも、欧州でも、それから米国でも、穴を塞ぐ*6必要があると考える人たちが出てきた。当然のことだと思う。同時に、そういったアクションが為替にどのような影響を与えるだろうかと考えれば、もちろん相対的な円安傾向だ。我々は主要通貨でたった独り、ウォータープルーフのバケツで高い購買力を保存してきた。とはいえ他の皆も今後、ゆっくりと時間をかけて、修理を始めるだろう。

*1:大切なのは観客を魅了する飛び様だ

*2:id:equilibrista:20100909:p1

*3:少なくとも試みている

*4:言い換えれば、需給が一致する金利はゼロに近い

*5:繰り返すが、元は貸し手のものだ

*6:少なくとも小さくする