政府のバランスシートを鳥瞰する

表題のような内容について、昨日お話しする機会があったのだが、S&P社による間接的なバックアップ*1もあって、エキサイティングなものになって嬉しかった。で、概要をまとめておこうと思う。話が財政の問題ともなれば、その土俵がマーケットだろうがアカデミアだろうが飲み屋だろうが、どこからともなく偉大なニャンコ先生がやってきて勝手な御説をまくし立てるのは、サッカー観戦の状況にもまったくそっくりだと思うのだが、実際のところ、そのほとんどが定性的かつ部分的なものだ。そりゃそうだ。自分のチームのバランスでさえ把握が怪しいってのに、どこまでも広大な政府のアイテム群をバードビューするなんてのは、普通の鳥には不可能だからだ。しかしそれでも、地図が欲しいと思わずにはおれない。僕らの気持ちは止まらない。どっこい、財務省はつくっている。


平成20年度 国の財務書類:財務省
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/fs/2010.htm


ああもちろん、あちこちに様々なエイヤが入っているだろうが、そして最新が平成20年度という亀足っぷりだ*2が、しかしひっそりと、財務省はつくっている。きっと若手が深夜に、山積みされた資料の長城に囲まれて、いそいそと作業しているのだろう。「こんなもん誰が見るんだよ」とか愚痴りながら、さっぱりフォーマットが一致しないエクセルと格闘しているのだろう。役人さん、僕が見ていますよ。で、引用してみる。もちろん、そこは別のアレじゃねえかとか、もうちょっと新しい数字も出てるだろとか、様々な細かいご指摘もあろうかと思うのだが、そういう突っ込みができる方にとっては、ご自身で補正されるのも容易でしょうから、もし劇的に物事が変化したらば、是非教えて下さい。いろんなひとに怒られそうだが、前回の記事*3のように、大雑把に項目をまとめてみる。オリャ。


(単位: 兆円)
資産負債
米国債99短期債89
財投163財投債131
固定資産183国債550
年金資産125年金負債136
独法他95借入22
純負債317その他54


純負債をそっちに書くなよとか、順番が気持ち悪いとか、そんなふうに細かな突っ込み欲を感じられたら、ご自身もニャンコ先生の素質をお持ちだと、お気をつけた方がよろしいかと思います。ええ、要するに大きな心で見て下さい。で、300兆円超の債務超過だと。ふうむ、なるほど。いやもちろん資産の評価は、そりゃもうカオスだと思いますよ。あらゆるレイヤーで相似するエイヤ。これね、資料の詳細に深入りしていくと、当たり前だけど凄まじいんだな。まあでもしかし、あまり奥まで首を突っ込んでると何年もかかってしまうので、今日はさっさと次にいこう。フローの方だ。この年の収入は、よく問題にされる社会保険料が約38兆円、税収やら運用益やら、それ以外の全部で約60兆円。そして支出は、年金を含む社会保障が約46兆円、補助金やら交付税やら人件費やら利払いやら、それ以外の全部で約78兆円だ。


なんだか既に随分な状況だが、引き算してみると悲しくなるが、こいつらを合体させて、僕らのモダンなバランスシートをつくりたい。もちろん将来の収入は資産だし、将来の支出は負債である。オリャ。


(単位: 兆円)
資産負債
[税収等]60xN[行政サービス]78xN
[社会保険料]38xN[社会保障]46xN
米国債99短期債89
財投163財投債131
固定資産183国債550
年金資産125年金負債136
独法他95借入22
次世代への負債317 + 26xNその他54


どうですか。我ながら凄いなコレ。さて"N"には10でも20でも、好きな数字を入れてみて下さい。プライマリーマルチプル、ほんとは各々にバラバラのはず*4さ。日本株のPERって、いま15倍くらいですか?純負債は「次世代への負債」と書き換えてみたが、財政リスクが小さいと考えるほど、大きな"N"を突っ込むほど、その数字は大きくなってしまう。もちろん将来の税収は、我々の頑張りで、相対的に膨らむかもしれない。もちろん将来の行政サービスは、我々の頑張りで、相対的に削れるかもしれない。もちろん将来の社会保障だって、関係者の取り組みによって、大きな影響を与えるだろう。


(単位: 兆円)
資産負債
[税収等][600][行政サービス][780]
[社会保険料][380][社会保障][460]
米国債99短期債89
財投163財投債131
固定資産183国債550
年金資産125年金負債136
独法他95借入22
次世代への負債[577]その他54


とりあえず10を入れてみたが、実際のところ地図は、ほとんどあらゆる場所を網羅している。が、しかしバランスシートの各アイテムが時間軸に沿って、それぞれどのように変化するのか、導くのは我々であることも忘れたくない。忘れられない。そう思うと、鳥になることができた今、僕が感じるのは、政府の目的って何だって馬鹿みたいな問いだ。ここまで読んでいただいた皆さんだって、もちろん政府のバランスシートの当事者のひとりだが、それぞれに専門をお持ちで、ここはああだろと、そこはこうだろと、何らかのビューを持たざるを得ないはずである。つまり政府のバランスシートは、その将来の姿は、当事者の数だけ存在すると、僕は考えている。もちろん、だから国債にいくら金利を要求するのか、その見方だって当事者の数だけ存在して、そのすべてが綱引きを繰り広げて、そのバランスは時々刻々と変化しつつ、折り合う価格を探り続けるのだ。