景気循環と均衡

何が驚いたって、この20年以上も前の、しかも誰も読まなさそうなコレを、WILEY社がハードカバーで秋に再販するというニュースですよ。内容が頭に入ってて、このタイミングで出そうって判断した(と思われる)編集者は、本当に凄いと思う。


Wiley::Business Cycles and Equilibrium, Updated Edition
http://as.wiley.com/WileyCDA/WileyTitle/productCd-0470499176.html

Business Cycles and Equilibrium

Business Cycles and Equilibrium


金融工学者フィッシャー・ブラック*1」を読まれた方には、当時ケインジアンにもマネタリストにも徹底的に無視された「貨幣の存在しない世界」から始まる彼のブッ飛びマクロを、ああこれかと気持ちよく堪能できるだろうと思う。論文集なので、あちこちに文脈がジャンプしながら、最終章を締めくくるのは「ノイズ」だ。繰り返すがコレ、80年代に書かれたんだぜ?


この本は、この後ゴールドマンへと去ってしまう彼の経済学への捨て台詞であり、また置き土産でもある。いまやRBC英エコノミスト誌にまでボロカスに言われる有様だが、「中央銀行は無力だ」から始まる彼のドライで普遍的な世界は、現在のFRBの苦しみを背景に眺めると、政府紙幣のような奇策を思い起こせば、鮮やかな説得力を持って浮かび上がってくる。


ケインズの世界で言うところの「流動性の罠」について、大恐慌時にアメリカが陥った状況について、彼は「貨幣の罠(currency trap)」と名づけ再定義し、本文中で何度も言及するのだが、その詳細については触れないでおこう。Blackwell社のペーパーバック版の裏には、"Should we believe him?"と偉い学者のコメントが書かれているが、僕は信じている。実際のところ、当ブログの突飛な理屈のネタ元の多くは、コレに由来している。

*1:

金融工学者フィッシャー・ブラック

金融工学者フィッシャー・ブラック