インフレターゲットは何を目指すのか

id:equilibrista:20090529:p2やid:equilibrista:20090601:p3の奴を、またしても持ち出してみる。


貸借(i)にかかる金利 = 実質金利 + 需給インフレ + 通貨リスクプレミアム + リスクプレミアム(i)


右辺第二項と第三項の和としてのインフレーションに、仮に「望ましい」水準が存在するとして、それを中央銀行が「宣言」することに、どのような意味があるだろうか。順に見ていこう。


まず第二項の「需給インフレ」だ。こう書いただけで既に自明と思うのだが、需給は需給で決まるわけであって、中央銀行が影響を与えられるとすれば、それはひとりのプレイヤーとして、ということになろう。しかしながら実際のところ、「ケチャップを買う」という決断をした先進国の中央銀行は、いまだに存在しない。そりゃそうだ。職員だってホットドッグばかり食べたいわけじゃないだろうし、ケチャップを資産として反対側に保有するようなお金なんて、誰も使いたくない。


そして第三項の「通貨リスクプレミアム」だ。「望ましい」インフレーションを実現するために、中央銀行は「無責任」になれといったのはクルーグマンだが、たしかに「無責任な」中央銀行の発行するお金を使って毎日生活しろだなんて、プレミアムでも貰わなきゃやってられませんよ。


ただね、そのプレミアムの水準を、通貨の発行体としての中央銀行が意図どおりに制御できるのかってところがポイント。もちろん普通に無理。ちょっとわかりにく話なので例示すると、それは社債の発行体が、自らの格付けを「適度に」低めに抑えようってのと同じくらい無理。「俺なんてこんなに無責任だぜ」ってな自称無責任男は、クレタ*1と同じくらい信頼できない。つまり、さっぱりわからない。


最近は実際に、通貨リスクのプレミアムは大きくないと困るぜって動きが、少なくとも商品価格からは観察されるようになっちゃった。で、先進国の中央銀行の一部では、こりゃマズいと、金利の引き上げを本格的に視野に入れる必要があると、考え始めてるわけ。


そこでもういちど最初の式に戻れば、結局のところ、すべてのアイテムは需要と供給の一致する水準に落ち着かざるを得ないわけで、その範囲を現実が逸脱していると思うとき、そこには収益機会がある。高いものを売って、安いものを買えばよい。イールドカーブも、商品価格も、そんなふうに捉えれば、現状を極めて自然に理解することができる。