不信インフレのメカニズム

レイヤーの異なる2つのコンポーネント、需給と信用がインフレーションを構成すると思うのが当ブログの立場なのだが、ちっとも浸透しません。どなたか是非、どこかに書かせて下さい。で、今日は後者について、なるべく簡潔にそのメカニズムを説明してみたい。よく知られるといいなと願いを込めて、勝手に表題のような名前をつけてみた。


将来について不安なとき、ひとは一般に利息を要求する。例えばこんなの。


金を貸すとき、返してくれる前に相手が倒産してしまわないとも限らないので、そのリスク分は利息をつけてもらわないと割に合わない。今日100円を貸すとき、明日に返してもらうのは、100円よりも多いのが普通だ。その大きさは一般に、無リスク金利とそのリスクにかかるプレミアムの合計である。


どこかで聞いたような話だと思う。さて、「円」という通貨そのものに不安があるとき、別のレイヤーにある似たような事情が僕らを揺さぶる。わかりやすさのために、一番極端な状況を想定しよう。「円」が明日から使えなくなってしまうような場合だ。先日のジンバブエのような感じ。本当に政府日銀が阿呆なら、その可能性すらゼロとはいえない。


そんなとき、明日支払ってもらうはずのお金は、その前に円が使えなくならないとも限らないので、そのリスク分も利息をつけてもらわないと割に合わない。今日100円分の仕事をしたとき、支払ってもらうのが明日なら、それは100円よりも多くなければ困る。仮に支払い元の倒産リスクがゼロだとしても。


これが、ザ・信用の毀損によるインフレーションのメカニズムである。実質金利と共に「無リスク」金利を構成するところのインフレーションに、ある種の「リスクプレミアム」が含まれているという一見奇妙な事実なのだが、よく考えるとちっとも変じゃない。実は円という通貨が「無リスク」じゃない可能性があるって話だ。


さて、こうして不信インフレのメカニズムを具体的に考えてみたとき、クルクルマン*1やお偉い経済学者の面々がおっしゃるように、中央銀行が「ちょいワル」宣言をして、部分的に信用を失うことで「マイルドな」インフレーションを引き起こせ、などという提言は、普通に馬鹿げてるという見解に、同意いただけるのではないか。


信用が常に思い通りに制御できるなんて、そんなはずないじゃないか。だって相手のある話だぜ。しかもその相手は、人類の全体だ。もし本当にそんなことができるなら、地球上のすべての悩みや、それらを歌ったラブソングの数は、いまよりも極端に少ないに違いない。そんなの全然、僕らじゃない。