インフレーションを整理する

「インフレーションは、需給と信用という2つのコンポーネントから成る」というのが当ブログの立場だが、わかりやすく整理するために表にしてみた。


貨幣の信用リスク
で物価が上昇
するしない
活発な消費と生産
で物価が上昇
する(A)(B)
しない(C)(D)


物価が緩やかに下落している現在は、(D)の状況にある。我々の消費意欲は減退しており、需給から価格は弱含まざるを得ない。つまり、安くないと買わない。他方で円の信用は担保されているため、つまり日銀は無茶をしておらず、こちら側から価格の上昇要因はない。


不況で消費が上向かないまま、貨幣が信用を失うことで物価が上昇する(C)を、スタグフレーションと呼ぶ。近年ではジンバブエが代表的なそれだが、この状況は悲惨だ。脱出するのは、つまり一度失った貨幣の信用を再び取り戻すことは、一般に極めて難しい。


貨幣は信用を保ちつつ、旺盛な消費によって物価が上昇する理想的な状況が(B)だ。「経済にとっては適度なインフレが望ましい」などと、よく表現される状態がこれだが、実際のところ因果関係は逆で、インフレが望ましいのでなく、望ましい状況のときに物価は緩やかに上昇する。


消費が旺盛なまま、同時に貨幣が信用を失う(A)のような状態は、あったとしても長くは続かないはずだ。信用のない通貨の金利は引き上げられざるを得ず、そのことは消費にも生産にもブレーキをかけるだろう。結果として、(C)に移行してしまう場合が多いのではないか。


現状の(D)から、どのエリアには直接的に移動可能で、どのエリアには移動するのが難しいだろうか。基本的に、縦方向の移動は自由でない。「活発な消費」を直接的にコントロールすることなど、誰にとっても不可能だからだ。「欲しくなれ」などと言われたからといって、すぐに欲しくなるほど、我々は単純でない。


中央銀行が無茶をするとき、貨幣は信用を失い、左に移動することになるだろう。これを意図的に行うことも可能かもしれない。とはいえ「信用を失うために」無茶をする中央銀行は、どこか可愛い。我々は、そんな奴を「信用」してしまうかもしれない。


失った信用を取り戻して右に移動することは、簡単に思えるが難しい。他人の相談に対して「誠実であれ」とアドバイスすることは簡単だが、自分が当事者になったとき、失った信用を取り戻すことの難しさを痛感したことのある方も多いだろう。

小さな日銀

このひとの発言は、いつもシビれる。


UPDATE2: 水野日銀審議委員記者会見の一問一答 | マネーニュース | 最新経済ニュース | Reuters
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK029470520090820

もうひとつ個人的に注目しているのは、財とサービスに分けて考えると、サービスの価格については賃金上昇率が大幅に下がっている。世界経済の先行き不透明感の中で、企業がコスト削減するなかで、どうしても賃金を抑制的にしなくてはならないという、経済のグローバル化が進む中で、労働分配率をもっと下げなくてはいけないという話になると、賃金のマイナスが長引くということになる。その時は、企業が考える期待成長率の低下、それから家計からみると、所得の低下となってくるので、そこについてはサービスの物価の回復が遅れるということになる。

物価が下がった理由を考えると、景気が弱いということ。先ほど財とサービスに分けて説明した。財については明らかに需給ギャップがマイナスだということが大きい。最近の動きで個人的に気になっているのが、雇用者所得の動き。中央銀行が物価の安定をと言った場合、それは中長期的にみた話。今起きている物価の下落は、世界経済の景気の低迷に起因する財のところと、それにも関係するが、企業が、世界・日本経済の先行きに対して期待成長率が若干下がってくるのではないか、あるいはもう下がってしまったのではないかという一部の企業が、キャッシュインフローの減少をコストカットで乗り切ろうとしている。それが家計部門にしわ寄せが行っているという状況が起きている。

景気が最悪期を脱して底割れを回避できたら、持続的景気回復を民間主導でどうやって引き出していくかを考えていかなくてはいけないので、当然、規制緩和ということになると思うし、あとは民間の力を引き出すためには、税制改正、例えば法人税がどうあるべきかという税のあり方の問題とか、研究開発を応援するような何らかの仕組み、あるいは政策面でのサポートが必要になってくる。政府の役割は少しずつ小さくなっていかないといけないと思う。なぜかというと、持続性がなくなってくるため。市場の失敗を政府の介入で止めることは必要だったが、それにいつまでも頼ると今度は、民間活力の低下につながり、結局、潜在成長力の回復にはつながってこない。


つけ加えることなど殆ど無いのだが、しかし、だとすれば水野委員が所属し給料を受け取っているところの日銀も、同じように小さくなっていく必要があるのではないか。小さな政府を志向するように、小さな日銀を志向することが、我々にとって素敵なのではないか。短期金利は本来、需要と供給が決めるべきではないのか。