母平均の検定 - あなたのポートフォリオは付加価値を生み出しているか

日頃から月次で記録していた、過去二年間の運用成績を確認したところ、平均は年率で5%、標準偏差は18%だった。有意に付加価値を生み出したと言えるだろうか。やや乱暴だが、どうにも空中戦ばかり見かける統計ブームを横目に、検定の枠組みに乗せて、すこし遊んでみよう。


帰無仮説H0: 母平均=0
対立仮説H1: 母平均>0


是非とも否定したいH0の下で、統計量

T = (標本平均 - 0) / 標本不偏標準偏差/√n


は自由度n-1のt分布に従う。先の記録を月率に戻して放り込むと、

T = (5%/12 - 0) / 18%/√12/√24 = 0.393 < 1.714 = t23(0.05)


よってH0は棄却されない。残念ながら、有意に付加価値を生み出しているとは言えなかったわけだ。


ではH0を棄却するには、どのくらいの期間、同じ水準の成績を出し続ける必要があるだろうか。五年なら有意と言えるだろうか、あるいは十年ならどうか。そのままnを増やし、比較を続けてみると、最初に逆転するのはn=423のときだと判る。

T = (5%/12 - 0) / 18%/√12/√423 = 1.649 > 1.648 = t422(0.05)


なんと35年もかかってしまった。より一般に、ご自身の成績と適当な期間を放り込んで、遊んでみられると楽しいと思う。


もちろん上記は、勝手に正規母集団を仮定し、0.05という恣意的な有意水準を置き、そして各月の試行は独立だと思い、要するに相当に強引だ。それらの条件を揺らしてみて、つまり別の分布を想定してみたり、あるいは賭けの様相について考え、より拡張された検定の姿を探ることは、何よりも統計の勉強になるかもしれない。


ただ悲しいことだが、この文脈では、いずれにせよ殆ど何も言えないことがわかるだろう。世界は変化を続ける。神は我々に、数字から運用成績を判定する方法を与えなかったのだ。